なぜ日本一になった楽天星野監督の采配が批判されるか

まず、背景から簡単に説明します。

特にメジャーリーグでですが、最近は投手の肩やひじは消耗品であり、投げさせすぎるとケガの原因になって選手生命を縮めてしまうという考え方が主流になってきました。WBCで厳しい球数制限が設けられるのはそのリスクを減らすためで、甲子園でエース投手が毎試合完投したりするのが問題視され始めたのもそのためです。疲れると打たれて負けるから、ではないのです。

今回、田中は土曜日の試合で160球を投げ完投しました。メジャーでは100球を超えるとケガのリスクが飛躍的にあがってしまうと考えられているため、先発投手は好投していても100球前後で交代させられることが多いです。ダルビッシュが120球投げただけでかなり批判されます。それと比べても160球というのはべらぼうに大きい数字で、そもそもこの160球だけで、土曜日から批判にさらされていました。

そこに加え、日曜日の最終戦に田中は9回から登板し、胴上げ投手となりました。160球投げた翌日に投げさせるのはこの理論から行くと狂気でしかありません。先発した美馬が好投していたことや、前日田中は巨人打線につかまってピンチの連続だったことを考えると、少なくとも勝つための采配ではないのは明らかです。

その一方で、エンタメの視点から見ると、田中が空振り三振で楽天の日本一を決めたことには非常に非常に大きな意味がありました。イチローの次世代を担うスーパースターが不在の野球界に誕生した国民的ヒーローは、多くの人たちに野球を見るきっかけを与えてくれました。今年の春に行われたWBCの、何倍も。

桜木君……白状します
君の異変にはすぐに気づいていた……気づいていながら君を代えなかった…代えたくなかった
どんどんよくなる君のプレイを見ていたかったからだ……指導者失格です
あと少しで一生後悔するところでした…

ここからが本題です。160球投げた試合の星野監督のコメントで、「田中が投げさせてくださいと言った」というのがありました。試合に出ている選手は、自分から替えてくれなんて言いません。投げさせてくださいと言うのが当たり前です。それでも選手の将来を考え、怪我のリスクを未然に防いであげる、それが指導者というものでしょう。「投げたいと言ったから投げさせた(だから俺は悪くない)」なんてコメントは最低です。

星野監督にも、1回だけチャンスがありました。冷静でいられるうちに、最終戦のベンチメンバーから田中を外せば良かったのです。160球だけならまだ批判は少なかった。このチャンスを逃した星野監督は、3-0の最終回にフラフラの田中を送り、ホームラン出れば同点というピンチまで追い込まれながらなんとか抑え切りました。

楽天日本一の瞬間に田中がマウンドにいるということは、リスクを負ってでも目指す価値があることでしょう。しかし星野監督は、そのリスクを田中にすべて押し付けました。先発した田中を早めに交代させることでケガのリスクを減らしつつ最終戦で使えたのですが、「先発した田中を途中で替えることで、もしそのあと楽天が逆転した場合はもう一度は田中を使えない」というリスクを自分が負う代わりに、田中のケガのリスクを取りました。

オヤジの栄光時代はいつだよ…全日本のときか?オレは…………オレは今なんだよ!!

その一方で。もし田中にこんなこと言われたとしても、「俺なら替えていた」と言い切れる者のみが、星野監督に石を投げなさい。ちなみに知ってのとおり安西先生にはできませんでした。僕にもできないでしょう。

今のところ、賭けは吉と出ています。感動しました。最高の日本シリーズでした。ただ、2009年のWBCのあと、燃え尽きたイチローがメジャーで大きく調子を崩したように、来年田中が不調だったりしたら、今回の采配は必ずやり玉にあがります。来年も田中が絶好調であることを祈ります。